INTERVIEW
石井「自分では独自とか変な視点を持っているとは思わないんです。まとも過ぎるほどまともだと思っています。例えば、世界の貧困地の食糧事情って本当に興味ありますか? 世界の貧困地でどんな性があるんだろう? どこで排泄してるんだろう? ってことのほうが興味があるに違いない。だから僕はそれを追いかける。自分では変なことをやっているつもりもないし、他の人が絶対書かないことを書いてやろうとか、独自の視点で貫いてやろうという気持ちはゼロなんです」
後藤「それは読んでいても感じます。それが素晴らしいんだと思います。だから、ことさらにそれを突っついてやろうってことではなくて。例えば、貧困の現場に取材に行ったら、その悲惨さだったりその原因だったりを書く人が多いですよね?」
石井「多いですね。9割はみんなそういうことを書きますよ」
後藤「光太さんの作品は、その裏側というか何歩か違うところから描かれているのが、僕としては読み物として面白かったし、興味深かったんです」
石井「そこの距離感覚って自分では説明できないんですけどね」
後藤「世の中的に、語ることがタブー視されていることを書き記すことは意味があると思うし。エイズのことに関しても著書『感染宣告――エイズなんだから、抱かれたい』を読ませていただきましたけど、やっぱり知らないことだらけですもんね。語ることも避けられているし、そうすることで正しい情報も行き届いてないし」
石井「そうですね。実際エイズの取材して、エイズ患者の男の人が"人生で一番モテたよ"って。"病弱な男好きな女の人が寄ってきて、超モテてやりまくった"って、言うわけですよ。
薬害エイズ患者の人って、国家の犠牲になって死んでいく、その人を支援しようという女の人の中には、恋愛感情が芽生える人もいるんですよ。HIVの取材をしている人は、こういう話はみんな聞いているはずなんですよ。だけども、それをみんな排除しているだけなんですよね。
何故かっていうと、エイズってそこじゃないところを書かなくてはいけないと始めから頭にあるから。
実際問題、エイズ患者からするとその当時付き合っていた人にエイズを移してしまって、相手が先に死んでしまって自分は生き残ってしまった。その罪悪感のほうが、その人にとってはものすごく重い、人生にとって大切なことなんですよ。
僕は、そう思うからそれを書いているんですけど、他の取材人はそう思っていないのか、それを書かない。僕はさっきから、自分のことをまともだって言っていますが、もしまともではないと見られてもかまわない。でも、そういう重要性、人間の大切を伝えること、考えるきっかけを作って提案していきたいなっていう気持ちがあるんですよ」
後藤「すごく、いいと思います。僕は、昔から教科書に書いてあるような歴史とか好きじゃないんですよ。あれって、すごく記号化されているなと思って、逆に怖いなと思うんです。僕らが思っているものとは違って、成り立ちとかぐっちゃぐっちゃで、ただひとつの歴史みたいに書かれているけどそうじゃないですよね。だから、民俗学の本とか読んだほうが、面白いですよね」
石井「そうです、そうです。それこそ、後藤さんのその辺に載っているプロフィールだって、それだけじゃないですよね」
後藤「かい摘んでいますよね。光太さんの作品は、現代民俗学みたいな感じで読んでいます」
石井「多分、これからは今まで通りの目線でやっていくことに限界が来るでしょう。これまでは、二項対立で説明が出来て、それで何とか成り立ってきたことであっても、これからはそれでは成り立たなくなっていく。それなのに、今まで通りの視点で進んでいこうとしても上手くいくはずがないんです。やはりそれ以外の目線が必要だと思うんです。例えば、イスラームの人間がテロを起こした。その時にテロがいけないっていうだけの文脈ではなく、彼らがどういう暮らしをしていて、どういう状況の中で何故テロをせざるを得なかったのかを見つめていく。そうやって色々な目線から紐解いていかないと、説明も理解もできません。それをやっていくのは、働きざかりの僕達であって、僕たちが新しい価値観を作らなければいけない。今回の大地震は、日本の経済を更に低迷させるでしょう。現地の復興だってまだまだ非常に混乱した状態です。ならば、今、ここでリセットして次のものを組み立てていかなきゃいけない。少なくとも僕とか後藤さんくらいの世代は、この機会に組み立て直す意識を強く持たなければいけない。昭和の時代からの制度で成り立ってきた会社の多くは、今回の震災を機に無くなってしまうでしょう。経済システムも崩れていきます。だからこそ今、今までと違うものを、音楽にしても文芸にしても作って提示していくべきじゃないのか。だからこそ、今回の災害を真っ先に取材したいと思ったし、ゼロの中から生み出すべきだと強く思ったんです」
後藤「僕も同じことを思いますね。何か新しいものを作りなさいって言われている気がしますね、どこかから。僕らは、ずっと何にもなかった世代だから。何もなかったっていうのは、そういうことなのかなって。今こうして大きな事件に直面して、音楽にできることって何だろうって、すごく難しいですよ。例えば、僕が被災地に行ったとして、想像を絶しますけど、確実に僕の想像が追いついていないってことを自覚した上で話します。今、ミュージシャンで被災地に行って歌いたいって、言ってる人がいます。だけど行っても"来てくれるな"って思う人がいっぱいいると思うんですよ。僕が現地の人でも"何だよ"って思うと思うんです。そういう気持ちもあるし、僕らも創作者として「経済」に抗う気持ちもあるんですけど、でも社会の余剰っていうか、ゆとりのところで活動させてもらっている部分もあるので、すごくみんないろんな気持ちに引き裂かれているんですよ。本当に言葉にならないんです」
石井「僕は、純粋に自分が子どもの時の目で今の自分を見たらどう思うかな、という部分だけを信頼したいんです。自分が小学生くらいの時に、今の自分を見て何をやっていてほしいか。例えば、今、震災地に入ることによって、他の仕事を放棄していろんな人に迷惑をかけるし、行くことで文句を言う人もたくさんいるでしょう。
でも自分が小学校3、4年生のとき社会を見つめたとして、自分が読んだことのある好きな作家の人が、東京にいて全く違う本を書いていたら、僕はその人のことを信用できないなと思うはずなんです。いくらお金にならなくても、かっこ悪くてもやらなきゃいけないときがあるだろうって、僕は思っています。演劇だって映画だって音楽だって同じだと思いますが、その世界で長くやっていたり、あるところまで成功してしまうとわからなくなるんです。ある程度上手くいくと、みんな煽ててくるし、それで社会の中での、ひとつのスタイルが出来上がってしまう。でもそれは自分を縛ってしまうことに繋がってしまう。僕は今、自分で自分のことを客観的に考えろと言われても無理なんです。読者がある程度ついたり、リスナーがたくさんついても、自分がどういうポジションにいて、どういう風に見られていて、何をしたらいいのかなんて、わかるはずがないですよ。わかるっていう人もいますけど、正直それは嘘じゃないかと思いますね。わかりようがないですよ」
後藤「僕は、10代の多感な時期が指標になっていますね。ロックを聴き始めたころの気持ちっていうか。そういうことに照らし合わせていますね。今回の震災に関してのチャリティもいろんな考え方があって、例えば曲を作って発表してその売り上げを義援金にっていう考えもあるんですけど、だったらまずは自分のお金から出そうって思ったし。もちろん、そうしてる人もいるんでしょうけど。そういう距離感っていうのが、自分の中で難しくて。そういうこと言うと、"お前はお金を集められるんだから、今は曲を売って義援金を集めるべきだろ"っていうリスナーもいるし」
石井光太 -PROFILE-
1977年、東京都出身。日本大学芸術学部文藝学科卒業。海外の生活や文化に関する作品を発表する他、ドキュメンタリ番組の制作、絵本や漫画原作、写真、ラジオなど幅広く活躍。 ■主な作品 |
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