INTERVIEW
後藤「J-POPで言ったら、そういう部分はあると思いますね。人間がやっていることだから、音程も外れることもあるしリズムも揺らぐこともある。でも、そういうところに魅力があるものだと思うんですよ。そういうところからも考えると、今の世の中って何かギスギスしているというか、真四角になっているっていうか。そういうイメージを僕も同じように持っていますね」
石井「そうではないところに向かって、スポットを当てることができるのって、本もそうだと思うし音楽もそうだと思うし、他の芸術の特権ですよね。だからこそ、作る人間は、フリーでいることを許されている部分があるし、その特権を精一杯使うべきです。そこを使わないなら、会社に属して社会の文脈に沿ってやればいいって話になってしまう。そして、多くの選択肢を持って、物語を見る、光を当てる方法を広げていけばいい」
後藤「本当にそうですよね。最近、僕は一神教とは遠い、アニミズムに興味があります」
石井「アニミズムって、ごく個人の宗教ですよね。昔、うちの爺さんが冬に死んで葬式をした日の夜に、蝿が一匹飛んできたんです。その時に、そこにいた人間がみんな、その蠅を"爺ちゃんが帰ってきた"って言ったんです。客観的に考えたら、帰ってくるわけがないですよね。だけども、一個人の中では、その瞬間、その蠅が一種の神様、爺ちゃんの代わりになったわけです。そういう神様って、本来は必要だと思うんですね。イスラムの売春婦の話だってそうです。例えば、10歳くらいのストリートチルドレンの売春婦の子が、おっさんに、お金は要らないから抱いてくれって言う。こちらから見たら、そんなの道徳的に出来るわけないだろって思うわけです。でも本人からすれば、今まで誰にも相手にされなくて、でも、お客さんならばその時だけはかわいいねって言ってくれて布団の中で寝かせてくれる。その子にとって、その瞬間だけは、お客さんが神様になるわけです。それがもちろん良いとは言ってないですけど、その瞬間は大切にしなきゃいけない。僕の目に見える人間の愛おしさっていうのはそこにあるんです。僕はその瞬間、かわいそうとか悲惨といった考えが全て消えて逆に愛しく思えてくるんです。あるいは、蠅を見て爺ちゃんだって話していた親族も愛おしくなる。そういうことを美しいって言い表せるのって、文学や音楽しかないと思うんです。」
後藤「光太さんは、視点が独特ですね。グッと話が入ってきます。やっぱり、ジャーナリストですね」
石井「ズケズケと言っちゃいますからね(笑)」
後藤「僕達は、理想主義的な側面がどうしてもあるので、その光太さんの斬り口はすごなって思いますね」
石井「僕は音楽のほうが羨ましいですけど......。お互いにないものねだりですね(笑)」
後藤「何歳くらいから、海外に行くようになったんですか?」
石井「海外には大学に入ってからですね」
後藤「初めは、旅費は自分で出してですか?」
石井「そうです。僕は、この仕事以外の選択肢は考えたことがないんですよ。後藤さんにはありました? 就職するという選択肢とか」
後藤「僕は、一度就職しました。ただそれは、音楽を続けるためには就職以外にないと思ったんです。首都圏に住んで、バイト代を計算をしてみたんです。そしたら、働き詰めで20万いくかいかないかくらいで。これじゃ、音楽作る時間が全くないぞと思って。だったら1回雇われようと思って。こっちの方が給料もいいし、有給も取れるし。残業も短めにして帰れば夜も使えると思ったんです。ひとつの手段でしかなかったんですけど。たまたま、とても良い会社だったんですよ。でも、音楽がダメだったら、会社は途中で辞めて田舎に帰ろうと思ってました。今日は、若い子達に就職ガイドではないですけど、光太さんがどのようにしてジャーナリストとして著書を出していけるようになったのかも、教えていただければなと思って」
石井「なるほど。僕はいろんな意味で運がよかったと思っています。物心がついたときから、作る人間になるんだと思っていました。ただし、親父が演劇系の仕事をしていたので、演劇系は絶対嫌だと思っていて、僕は音痴なので音楽という選択肢は元から無かったので、その後に、映画を作るのか小説を書くのか、ノンフィクションを書くのかっていう選択肢が残りました。それで、18歳のときに初めてアフガニスタンへ行って、地平線にずらっと並んでいる物乞いを見た時、これをレポすれば100%上手くいくという、根拠のない自信が芽生えたんです。その後ですぐに、そのレポを書くためには何が必要なのかを逆算しました。資金も必要だし、文章力も必要だし、海外取材をするには言語も必要。政治的な問題、背景も知らなきゃいけない、色々なものが必要とされてきます。そのために何をやるのかを考え、1日3冊の本を読む、1週間で小説を模写して、1ヵ月間で100枚の話を書くっていう毎日を自分に課す、そうやってずっと書くための筋力を作っていきました。付き合っていた彼女にもらうプレゼントは、全部図書券(笑)。普通、ノンフィクションを書く人達って、新聞社やテレビ局に入って10年20年修行して、そこから40歳や50歳になって独立するっていうケースが多いんです。でも僕は、それは嫌だった。すぐにやりたかった。大学を卒業した後、知り合いの会社を自分で受け継いで1年くらい続けて、その後会社ごと友達に譲ったんですが、辞めた後も僕にロイヤリティが発生するようなシステムにしたんです。その資金で一番初めの取材に行きました。それで、これをルポすれば上手くいくって決め込んでいたことをルポしたら上手くいったんですよ。どうすれば上手く書けるかってよく聞かれるんですが、正直な話わからないし、そんな方程式なんてないんですよね。後藤さんも、音楽をどうやったら絶対上手くいくかなんて聞かれても、答えはないですよね?」
後藤「それは難しいですよね、自分のやってきた方法は言えますけどね」
石井「ひとつだけ言えるとすれば、根拠のない自信は必要だなと思っています。どれだけ根拠のない自信を持てるか、そしてそれに対して100%つぎ込めるかってことだと思うんです。少しでも悩んだり上手くいかないって思ったら、100%つぎ込めない。100%つぎ込めない人が上手くいく世界じゃない。がむしゃらにやっていればチャンスを見逃すこともなくなると思っています。ノンフィクション作家になりたいって人から相談を受けたりすることもありますけど、例えば、今この時点で"何やってるの?"ってメールを送ったとします。"東京にいます"って返信が来たら、"何やってるんだ? 今、仙台に行かなくてどうするんだ!"って返しますよ。あるいは、出版社のノンフィクションの担当編集者と飲みに行く機会を設定したとする。その時にただ名刺だけもらってサヨナラしてどうするんと思いますね。せっかく会うチャンスがあるならば、その場で原稿を何枚でも渡して、そこで認められて上手くいくかどうかの世界ですから。根拠のない自信の中でアタックして、それで上手くいくかどうかが現実だと思うんです。その勢いっていうのは編集者にも読者にも伝わると思うんです。それは、その人の魅力にも繋がります」
後藤「突破力がありますね。やはり、独特の視点をお持ちですよね。だから、独自の作品が生まれるんでしょうね」
石井光太 -PROFILE-
1977年、東京都出身。日本大学芸術学部文藝学科卒業。海外の生活や文化に関する作品を発表する他、ドキュメンタリ番組の制作、絵本や漫画原作、写真、ラジオなど幅広く活躍。 ■主な作品 |
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