INTERVIEW
イミディワン
〜アフリカの仲間たち
ティナリウェン
後藤「サラームさんがワールド音楽に惹かれる理由って何ですか」
海上「ワールド音楽を聴いていると"自分の知っているものだけが全てじゃない"と気づくことが多いんです。音楽が好きだという人は沢山います。でも、ほとんど全ての音楽好きの人が聴いている音楽はリズムは4拍子で、BPMは60~180くらいの間の音楽だけ。世界には7拍子も11拍子もあるし、BPMが20の音楽も400の音楽もあります。そういう自分の知らなかった音楽を沢山聴き続けることで、自分の中にあった古い既成概念の壁が崩れて、その外側にある世界が見えてくる。それがワールド音楽の醍醐味の一つかな」
後藤「うん、それは楽しそうですね」
海上「例えば、西アフリカのサハラ砂漠周辺部から出てきた『砂漠のブルーズ』という音楽ジャンルが数年前から世界的に人気を集めているんです。マリやアルジェリアやモロッコのサハラ砂漠周辺に住むトゥアレグという少数民族の音楽です。今、エレキギターを持たせたら彼らにかなわないと言う人もいるくらいです。アフリカとサハラの文化、そしてアラブの文化が混ざっている。それを代表するグループ、ティナリウェンを聴いて下さい」
後藤「楽しいですね」
海上「そう。エレキギターを初めて手にした時の感動みたいなのがこの音楽には残ってる感じがする。それにアフタービートじゃなくて、拍の頭を手拍子するビート。日本の手揉みのビートに近いでしょう。彼らは子供時代にマリ政府によるトゥアレグ人の弾圧を受けて、命からがらに逃げ出した。その頃、リビアのガッダーフィー大佐がアフリカの少数民族をピックアップして、それぞれのアイデンティティを育てながら、軍事訓練を受けさせ、ゲリラに育てあげるという事をリビアで行っていたらしいんです。ティナリウェンのメンバーもその軍事キャンプで9ヶ月ほど訓練を受けたんです。でも、やはり自分達は音楽をやりたいとキャンプを抜け出して、地元に帰ってエレキギターを持ってティナリウェンというグループを作ったんです。ほら、ティナリウェンを聴いている人は偶然、今話題のガッダーフィー大佐と繋がりを持つんです。もう一つ、日本でも人気のイギリスのインド系のグループ、エイジアン・ダブ・ファウンデーションもガッダーフィー大佐をテーマにした曲を作っていて、それが日本でもヒットしたアルバム『パンカラ』に収録された曲の元となっている。ここでもガッダーフィー大佐です。ティナリウェンにしろ、エイジアン・ダブ・ファウンデーションにしろ、そんな事知らないで聴いてきたけれど、今になってガッダーフィー大佐と繋がってくるんです」
後藤「それは面白い!」
海上「そういう事がワールド音楽を聴いているとものすごい頻度で起こるんです。だから僕が今回のエジプト取材で革命に逢ってしまったのも偶然なのか、必然なのか自分ではわからない」
後藤「それだから今回、サラームさんを招いて対談をさせていただくことが良いタイミングだと思ったんです。自分がアラブや北アフリカに行く事ってほとんどない。この先も行ける可能性って少ないし、たとえワールドツアーをする機会があったとしても、アラブには行かないだろうと思うんです。ワールドカップでも見に行かない限り。そう考えると、今、サラームさんにエジプトの音楽の話を聞いてみたいと思ったんです。実はカイロに住んでいるアジカンのファンの子もいて、"父ちゃんが銃を持って今出ていった"とtweetしてくれたんですよ。でも本人は"家でビデオゲームをやっている"と(笑)」
海上「夜は外出禁止令出てましたからね」
後藤「一つの側面だけで塗りつぶしちゃいけない事ってあるじゃないですか。エジプト人の全員があの広場に集まっていたわけじゃないし。そんな中でエジプト人の若者達ってどんな音楽を聴いているんだろうと興味があったし。アラブのスタンダードと僕らの暮らしのスタンダードって全然違うだろうし。そして僕もまだ日が浅いけど世界の色んな音楽を聴いてみると、日本の音楽って相当西洋化されていることに気づく。日本のロックバンドには英語で歌うことがカッコ良いと思っている人達がいると思うんです。僕はそのことがずっと不思議で。僕もロックを始めた時は英語で歌いたいと思ったんです。それがカッコ良く思えたから。でも、僕達は日本語で話して、暮らしているわけだから、なのに音楽になると突然英語を使わなければならなくなるのはどうしてだろうか?と。もちろんロックと英語の相性もあると思うけど。そういうこと自体が社会における様々な事に繋がってくると思うんです。如何にこの国がアメリカナイズされているか。それは米軍基地の問題にも繋がってくる。音楽を聴いていると、その他の事と繋がってくるんですよね。例えば日本的な音階にしても、いつのタイミングで駆逐されてしまったのか知りたい」
海上「僕のトルコの友人の音楽家で、トルコの宗教音楽に用いられる葦笛ネイをエレクトロニック音楽と融合して、大ヒットさせたメルジャン・デデという人がいます。彼と話していた時に、日本の尺八の話になって。僕が"日本では尺八がポップ音楽に用いられる事はないよ"と言うと、彼は"いやトルコでも実はそうだったんだ。僕がネイを吹き始めた頃はネイを聴きたがるお客は5人、10人だった。でも、今では一万人以上も来てくれる。そこにはイスラムの敬虔なお祖父さんも、若いパンクスも、ベールを被った女性も、被っていないタンクトップ姿の女性もいる。だから尺八だって何かのタイミングで戻ってくるよ"と言うんです」
後藤「それはあるかも、そんな気がします。ただ、それが一体いつ、どんな形なのかはわからない。OKIさんみたいにアイヌ民謡とダブの融合だったり、パンクバンドがバンドに和太鼓を持ち込んだりはしてるから、何か起こりそうですよね」
海上「そうですよ。日本回帰みたいな現象は至る所に起こっているわけで。バンドの名前でさえ漢字交じりの日本語の名前が増えてきた。僕は今回のエジプト革命を通じて、アメリカ一極の時代は本当に終わりが見えてきたんだなあと思うんです。アメリカが作り出したfacebookやtwitterを使って、エジプト人はアメリカから自由になろうとしている。それとは反対に今年のグラミー賞授賞式って今まで一番視聴者が多かったと伝えられました。日本の音楽家も四つもノミネートされていると。でも、あれは僕には長く続いていたお祭りの盛大な終わりのように思えてしまったんです。紅白歌合戦がいつのまにか時代に取り残され衰退していったのと同じような。"グラミー賞なんてもう要らない!"そう人々が言い出す直前の一番良い時、終わりの始まり。音楽においてもアメリカやイギリスの一極集中が終わる、そう思いました」
後藤「確かに。ロック自体が一神教のようになっている。西洋のロックこそがポップ音楽のスタンダード、それが緩やかに壊れていく、あるべき場所に戻っていくような、そんな気がしますよね。すると日本のロックはどうなっていくんだろう。僕は欧米のロックのフェスティバルに、日本語の歌詞のまま出演してみたいんです。自分の言葉で。日本語で歌うと日本語のイントネーションを壊せなくなる。そこに縛られるのが面白くて詩を書いている所も多々あるんです」
海上「後藤さんは日本語をキレイにそのまま歌っていますよね。僕は桑田佳祐さんや矢沢永吉さん、ユーミンが本当に苦手だったんです。ああいう巻き舌と変なイントネーションの日本語が。もっと普通に歌えばいいのにと思ったんです(笑)。でも、欧米のものだったロックを日本に輸入するときに、ああいう巻き舌やイントネーションを崩す過程を通る必要があったのかもしれませんが」
後藤「雑誌を読んでいても、どうしてこんなに欧米的なロックばかりがはやしたてられるのか、とても不思議だと思います。ゆらゆら帝国とか、言葉と音楽のパーツが絶妙でしょ。僕が日本語の歌詞で作ろうと思い始めた頃、ゆらゆら帝国とeastern youthとか出てきた。自然な日本語のロックだなと、すごくビックリしちゃって、憧れた。だんだん歳を取ってきて、自分が欧米的な価値観の中に生きている事に違和感を感じるようになってきたからでしょうか。もちろん、その中に面白いものがありますけれど。ただ、時々、ここはアメリカなのか?と思っちゃう事がある。そういう意味で最近になって、色んな国の音楽を聴き始める入り口に立ちました。面白いですね。ヌスラット・ファテー・アリー・ハーンとか聴いていると、メロディがどうしても割り切れない所に行く。でも、僕らのロックだってゆらいでいて割り切れないものがある。そういうのは、やっていて楽しいですよ。逆にJポップはそういう所を排除している。機械を使って全てをビッチリ鍵盤の上に並べるように作っているし、タイム感もそう。そうやってコブシみたいなものを殺してしまっている。そこに違和感がありますね。ロックのミュージシャンはナチュラルなピッチ、録音に回帰している人も沢山いるし、そこにも興味があります。いずれ、こういう西洋的なものを崇拝してしまった所から説き放たれていくだろうし、早く解き放たれたいという思いはありますね」
サラーム海上 -PROFILE-
東南アジア、インド、中東、北アフリカ、ヨーロッパ他、世界の音楽に精通した、よろずエキゾ風物ライターとして雑誌、ラジオ、TVで活躍。また、DJとしても活動。和光大学オープンカレッジぱいでいあの講師も務める。 <著書> |
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