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(2011.02.28)
サラーム海上 ×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)

babazula
ババズーラ
※今年4月に日本盤が
発売される予定。

海上「もう一つ、ロック系の音楽としてオススメは、僕のイスタンブールの友人であるババズーラの新作も。彼らはトルコの民謡やベリーダンス音楽を元にしたダブ・ロックなんですよ」

後藤「これジャケットが良いですね。聴きたいです。トルコ民謡が気になっていたので」

海上「ライブではジプシー系のパーカッショニストが一人、リズムのループとパーカッションが一人、そしてボーカリストは三味線に似た民族楽器サズをエレクトリック化して、それをかき鳴らしながら歌うんです。ベリーダンサーや女性歌手も参加しています」

後藤「(ジャケ内写真を見ながら)おお、サズにピックアップが付いているんですね! どんな音がするのか聴いてみたいですね。この楽器をトルコに行って買って帰りたいくらいです!」

後藤「これは良いですねえ! 民族的な要素がちゃんと入っているし。トルコは宗教的には?」

海上「イスラーム教です。トルコは産油国を除けば中東のイスラーム教国の中で最も経済成長も進んでいる国です。農業も工業もEUにとって不可欠の国として成長している。何よりもすごいのは1923年のトルコ共和国建国時に政治と宗教を完全に分離したんです」

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後藤「今まで行った中東の国の中で特に面白かった場所はどこですか?」

海上「トルコのイスタンブールです。もう十数回行ってますが、音楽が本当に充実してます。トルコは一旦イスラーム教を脇に追いやって新たに作られた国なんですよ。古い伝統は一旦捨てたという所は日本とも似ています。民謡とかも国が作り直しちゃったりして、日本と似たような過程は踏んでいるんだけど、今も伝統音楽が強く残っている。新しく作られた政治的な首都アンカラに対して、2000年前から続く国際都市イスタンブールの存在が強かったんでしょう。吟遊詩人やら、オスマン帝国の宮廷楽士やら、それからロックンローラーやら、そういうダメな輩の吹きだまりのような退廃的な都市文化が早くから形成された。東京で言う下北沢とか高円寺みたいな場所の音楽文化が生まれたんです。それは他の中東諸国にはない。他の中東諸国では宗教や伝統に縛られて、基本的に目上の人間の言う事を聞く社会が続いている。それに対して、トルコは伝統を排除して出来上がった国だったから、音楽にもそういう多重構造が生まれたんです。メジャーなものに対してマイナーなもの、ジャズや西洋クラシック、そしてインディーズのロック、ヒップホップ、テクノまでもが育った。そういう音楽家が新しい音だけでなく、民謡の要素を用いている。だからイスタンブールは本当に楽しいですよ。下北沢や高円寺に居るような感じ」

後藤「へえ、気分的にそうなんだ。お酒は飲めるんですか?」

海上「ええ、トルコではラクというリキュールが有名です。夜になると居酒屋で演歌を聴いて涙ぐんでるオヤジ達だらけですよ」

後藤「ではエジプトはお酒は?」

海上「基本的にダメですね。五つ星ホテルに入っているナイトクラブやディスコではもちろん飲めますが」

後藤「同じ中東でも何から何まで違うんですね」

海上「ええ、一番音楽に困ったのはイエメンです。音楽のコンサート自体がないんです」

後藤「それは?」

海上「カセット屋は町にあるんですけど、コンサートとか一切アナウンスされない」

後藤「ではイエメンでは生演奏を聴けなかったんですか」

海上「最初一週間は何も聴けなかったんですけど、日本大使館の知人や知りあった地域の首長を通じて、結婚式場や彼らのサロンに呼ばれて、そこで弦楽器ウードの生演奏を聴けました。首長のサロンに行くと、白い伝統衣装で頭に輪っかを付けたオヤジ達が、カートと呼ばれる噛みタバコをくちゃくちゃ噛みながら、ウードの生演奏を聴くという場面に遭遇しました。中世の花鳥風月そのままの世界ですよ」

後藤「町にサブカルチャーとしての音楽が無い?」

海上「イエメンではゼロです」

密林のポリフォニー ~イトゥリ森ピグミーの音楽
密林のポリフォニー
~イトゥリ森ピグミーの音楽

イトゥリ・ピグミー

後藤「ところで、サラームさんがワールド音楽にのめり込んだきっかけは何だったんですか?」

海上「子供の頃はシンセサイザーが大好きでした。今考えるとシンセサイザーが異世界の音楽だったからです。シンセは電気的に作られた実在しない楽器の音ですから。僕は自分の世界の外側にある音楽に惹かれていたんだと思います。高校生の頃は坂本龍一さんがラジオで番組をやっていて、そこでバリ島のガムランとかケチャとか、ブルガリアの女性コーラス、ピグミーのポリフォニーなどをかけていたので、それで随分知ったんです。その頃からレコ屋や図書館に行って民族音楽の棚をあさるようになって、イランの音楽やインド古典音楽なんかを掘り始めました。大学時代は下北沢のレコファンや渋谷のWAVEに通いつめ、アルバイトしたお金を全てレコード買うのに費やしてましたね。80年代の終わり、ちょうどワールド音楽のブームが始まった頃です。もちろん当時流行していたロックやパンクやポップも聴いてました。そして大学を出てそのWAVEに就職して、レコードを買う側から売る側になったんです」

海上「ワールド音楽にハマると個々の国々や少数民族の宗教や文化の違いをある程度知らなければならないので、知れば知るほどに底なし沼にハマるようなものです(笑)」

後藤「全部の国の全部の音楽ジャンルですもんね」

海上「そうなんです。日本で言えばJポップからお琴、義太夫、ヒップホップ、沖縄音楽、アイヌ音楽、テクノまで、それを他の全部の国で網羅しようなんて元々無理なんですよ」

後藤「若くして、そういう音楽にハマると大変ですね(笑)。ワールドミュージック以外の音楽は?」

海上「聴きましたよ。中学一年の時にYMOに出会ってガツーンと来た、いわゆるYMO世代です。もちろんロックやニューウェイブ、パンクも好きでした。面白いのは、その頃好きだったニューウェイブの音楽家が今になってワールド音楽と繋がっていた事がわかる。スペシャルズとか、モノクローム・セットとか。メンバーにイギリス人も多いけど、移民も多いんですよ。東欧やインドの移民もいます。スペシャルズの2トーン・スカとか、今聴くと東欧のジプシー音楽みたいに聴こえる。それで調べ直すと、中心人物が東欧系移民だったりする。パンク、ニューウェイブはそれまでレコード会社が見向きもしなかった音楽家達が自分達でインディーズ・レーベルを作って活躍を始めた動きです。そこにはイギリスの階級社会から外れてしまった移民達も含まれていたんです。例えばワムのジョージ・マイケルはギリシャ人、もう一人はエジプト人なんです。そう考えると『ケアレス・ウィスパーズ』が世界中の演歌歌手達にカヴァーされている理由もなんとなく見えてきます。あれはギリシャ歌謡だったんです」

後藤「それは面白いですね、音楽の繋がり」

海上「ええ、後になって気づく事が圧倒的に多いですけどね。」

サラーム海上 -PROFILE-

東南アジア、インド、中東、北アフリカ、ヨーロッパ他、世界の音楽に精通した、よろずエキゾ風物ライターとして雑誌、ラジオ、TVで活躍。また、DJとしても活動。和光大学オープンカレッジぱいでいあの講師も務める。

<著書>
・東南アジア、インド、中東、北アフリカ、ヨーロッパ~世界25ヶ国以上を旅し、現地の町角で聞いた様々な音楽についてイラストとともに綴った、これまでになかったコアでポップな世界音楽紀行集。 「エキゾ音楽超特急完全版」(株)文化放送メディアブリッジより絶賛発売中!
・5年にわたり通い詰めたインドの音楽をテーマにした 「PLANET INDIA~インドエキゾ音楽紀行」河出書房新社より絶賛発売中!

ウェブサイト「サラームの家 chez-salam.com」
サラームのブログ「Musique Nonstop」

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